[包丁事件]
私が、小学校にあがるころ、父の転勤で、また母の実家から離れたところに移り住んだ。
ちょうど、私が、3年生ころ、ある日、学校から帰ると、父が荷物をまとめていて、母がまた、しばらく、入院することになったといった。
私は、普段とかわらない母だと思っていたので、どういうことか、理解できなかった。
母の入院先は、実家の近くの病院なので、また、離ればれになることは、わかったので、さびしかった。
それでも、夏休みには、母の実家に長逗留して、母とは、よく面会できたので、半年はあっという間にすぎたように思う。
次の年、母が退院してから、家を新築し、引越しをした。母も、しばらくは、新しい家で、通院しながら、元気に暮らしていた。
私が小学校6年のころ、母の病気が再発した。
私が、妹と、いつものように学校から帰宅すると、母の様子が変だった。しばらくして、台所から包丁を持ち出し、私に「いっしょに死のう」と近づいてきたのだ。
私は、怖くなって、妹の手をひっぱり、サンダルばきのまま、家を飛び出した。そして、近くの神社まで、逃げ込んだ。母は、追ってこなかったが、父が、もどる時間までそこでじっとしていた。
夕方、父が、私たちを捜しにきて、私たちは、ようやく家に帰れた。
それから、しばらくして、母はまた、精神病院に入院した。どうも、このころから、「統合失調症」(当時は、精神分裂病)と診断されたらしい。今度の病院は、同じ市内にあったので、面会には、便利であった。
しかし、私は、こわくて、しばらく、母には、面会できなかった。そのうち、父に連れられ、母と面会したとき、母は、いつもの母だったし、あのことは、覚えていなかったらしい。信じられなかった。私にとっては、はじめて、母の病気の怖さを知った体験だったからだ。
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