母のこだわり

 これは、本人に言わせると「そう言われた」ということだ。私に言わせると、幻聴だろうということ。
 二年前まで、朝は、8時すぎに、夜は、8時半までに薬を飲まなくてはいけないと、母は、守りとおした。これは、入院時の服薬の時間を守っていたらしい。
 薬は、朝は「食後」、夜は、「就寝前」の服薬と書いてある。
 今、母は、朝は、食後5分、夜は、食後15分に飲むと決め、時計をにらみながら、一分でも違ったらいけないと守っている。いくら私が、「先生は、そんなこと言ってないでしょ」といってもだめだ。
 そももそ、朝は、一年前までは、15分後にしていたのに、いつの間にか、「5分でいいの」と自分で新ルールを作ったのに、それも、自分が決めたというよりも、「言われた」という。
 はじめのころは、私も、世間一般常識にのっとって、母を説得しょうとしたが、「べつに命に別状はないし」と黙認している。
 ただ、時計を見て、スタートの時間をすぐに忘れ、20分たっても、「あと15分ね」といい、30分しても「あと5分かな」という調子なので、ときどきいらいらする。あんまり母の調子に合わせていられない場合は、はじめに見た時刻を本人に言ってもらい、目の前で、ホワイトボードに書き入れると、ちゃんと15分足して、薬を飲めるので、「まだまだ頭はいいな」と妙に感心してしまうのである。今では、これも頭の運動になるので、続けてもいいなとひそかに思っている。


 
 

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