母の好物

 我が家において、母の好きなメニューは、すき焼きとちらし寿司。ただし、好物は、お菓子とくだものだというのが、本人説。ディサービスの職員にそう答えていた。食べることが大好きなのだ。
 まず、私たち、夫婦とだいたい同量の食事をし、しかも、体の具合の悪いとき以外、残したことはない。風邪も、この10年、一回だけひいたことがあるが、寝てなおした。精神科以外のお世話になったのは、鼻に良性の潰瘍ができたときと、ものもらいで眼科にかかったこと、それから、床ずれぐらいだ。もちろん、血糖値が高いので、私が食事の管理はしているが。
 ふだんは、無表情で食事している母が、すき焼きのときは、目が輝き、にこにこして、「いただきます」という。それから、口をもぐもぐさせながら食べているときも、視線は、常にすき焼き鍋のほうにいっている。婿さんが、「お肉、たくさんあるから、安心していいよ」と気を使い、私は、苦笑してしまう。
 精神状態が非常に悪いときは、幻聴に邪魔されて、母は、食事中もたびたび箸をおいて、ひとりごとをしゃべり続け、見ていてかわいそうだった。今、食事に夢中になれることは、それだけ病状が安定していることなのだと、私は内心ほっとしている。
 
 

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